「あ〜また、残っちゃった」
 

ヨーコは給食後、飯缶をみながらこぼしています。

「どうしてうちのクラスの子どもたちはあんまり給食をたべないのかしら」


給食当番の子が給食室に飯缶や食器を返しに行くために並んでいました。ヨーコはユキに聞いてみました。

「ねえ。どうしてみんな全部たべられないのかしら」

「時間が短いの。」「そうかなあ。20分あれば十分じゃない。だって、おとなりのユーイチ先生のクラスは毎日完食よ。同じ時間で。」

「だって、いつのまにか時間がおわっちゃうんだもん」

「おっかしいなぁ・・・」


ヨーコは腑に落ちません。全く同じ給食時間なのに、どうして先輩のクラスは毎日完食で私のクラスは毎日完食残るんだろう。


「何か秘密があるのに違いない」


ヨーコは次の日、給食時間にそっと教室を出てとなりのクラスを覗きに行きました。


子どもたちはニコニコしながら給食を食べています。特に変わったところは見えません。

それでも先輩のクラスは完食。ヨーコのクラスはまた残りました。


ヨーコは次の日もまた先輩のクラスを覗きに行きました。

kyusyoku7
 


「センセー。またヨーコ先生がきてますよー」

先輩のクラスの子どもたちが先輩に知らせました。

「きりしま先生。どうしました?」

「あ、いえ・・あの、どうして○○先生のクラスはいつも完食なのかと思ってその秘密を・・・」

「はあ。キリシマ先生のクラスは残るんですか?」

「もう、毎日。子どもたちに聞いたら、時間がないっていうんです。でも先生のクラスも給食時間は同じでしょ?だから何か秘密があるのかとおもって・・・」


「ああ、それなら、これじゃないかな。ん・・・49分か。よし。キリシマ先生。あと1分みていてください。」

「???」


ヨーコはいったい何が起こるのかとおもって見ていました。


ちょうど1分たちました。先輩のクラスの当番の子どもが急に声をあげました。

「50分になりました。これからもぐもぐタイムです。10分間集中して食べましょう」

その合図で、子どもたちはそれまでグループにしていた机を動かし、勉強の時の1人づくえにもどしました。

それからの10分間はこれまでとはうってかわって、静かに給食を食べています。だれもしゃべりません。

聞こえるのは食器のカチャカチャいう音と、さわがしいとなりの自分のクラスの話し声。

みんな食べることに集中しています。


ヨーコは目を丸くして見ていました。


10分後

「あと、5分で給食が終わります。後片付けの準備をして下さい」

子どもの合図で、すでに食べ終わっていたほとんどの子どもたちは、食器を重ねたり給食ゴミをまとめたりして片付けの準備を始めました。その時間も静かです。


やがて5分が経ち、給食終わりのごちそうさまのごあいさつで、子供達は一斉に食器を片付け始めました。残す子どもはいません。


ヨーコは目から鱗が落ちたような気がしました。秘密は「もぐもぐタイム」。静かに集中して食べる時間を10分間つくっていることだったのです。


ヨーコはクラスにとって返しました。同じように食器を返しにきながら残滓を飯缶に戻して行く子どもたちを見ながら、「よーし!あしたから見てらっしゃい」と思うのでした。


翌日、ヨーコは先輩の真似をして「もぐもぐタイム」の導入を子どもたちに提案しました。


「みんな。お隣のクラスが毎日完食できる秘密を見つけたの。もぐもぐタイムよ。」

「もぐもぐタイム?」

「これから最初はいつもの通りに給食を食べましょう。でものこり15分になったら、それからは机を戻して1人になって、お話をせずにもぐもぐ集中して食べるの。これならきっとみんなも食べてしまえるよ。どう?」

「やってみる!」


子どもたちも乗り気です。新しいことにはなんだかワクワクして取り組もうとする子供達です。


「お話タイム」では、これまで通り楽しくお話をしながら食べています。もぐもぐタイムのはじまりをワクワクしながら待っている子どももいます。なんといってもこれでみんな完食できるかもしれないのです。


当番の子どもの合図で机を戻し、もぐもぐタイムが始まりました。とたんに子供達はシーンとなりました。給食の完食ができるならと一生懸命にとりくもうとしてくれているようです。


やがて給食が終わりました。


ヨーコも子どもたちも目を見張りました。


完食とはいかないけど、昨日までの残滓の多さとは比べものになりません。どうしても食べられなかった子どもが決まり悪そうにもどしたほんの少量が残っているだけでした。
「だいじょうぶ!だいじょうぶ!どうしても食べられなかったのね。心配しなくてもいいよ。ほら、こんなに少なくなったんだから」


ヨーコの日記

先輩のクラスが完食できるのは、集中して食べる時間「もぐもぐタイム」をつくっていたからだった。
確かにうちのクラスでは最初から最後までペチャクチャ喋りながら食べていた。これじゃ、時間がないというのも無理ないし、食べることに集中できない。
これからももぐもぐタイムを続けよう。子どもたちも乗り気だし。
でも、それだけじゃない気もする。もぐもぐタイムを作っても残す子どもが少しだけどいる。
でも先輩のクラスでは毎日完食している。まだ何か秘密があるんじゃないかしら。
あの子たちにも完食させてやりたいな。
もぐもぐタイムを増やしてみる?
いや、楽しく会話しながら食べる時間も必要だし、そもそも先輩のクラスではその時間でできてるんだから・・・。
しばらくやってるとなれるのかなー?

 

翌日から、しばらく様子を見ていました。

確かにこれまでとは打って変わって残債の量は減っています。「もぐもぐタイム」をつくるというたったそれだけでこんなにちがうなんて。

教師の工夫ってすごい。そして嬉しい。


でも、一週間経っても少量だけども残す子どもは減りません。


まだ、なにか秘密がありそうですね。