「なかなか完食にならないわね・・」
 

ヨーコは給食後、飯缶をみながらこぼしています。残した子どもが悪そうにしています。ヨーコはあわてて「いいのよ。一生懸命食べたんだもんね。」と言ってなだめますが,子どもはヨーコ先生を残念がらせていることがつらいみたいです。
 

「いけない。いけない。顔にでちゃう。でも食が細い子は先輩のクラスにもいるはずなのにな。何で毎日間食なんだろう。」
 

残菜は減ったけどどうしても食べてしまえない子どもはいます。

ヨーコは、ユーイチ先輩のクラスには、何かまだ秘密があるのではないかと思いました。
 

残菜は少しだからいいじゃないかとも思うのですか、やはりそれでもヨーコは残すことをもったいないと思うのです。そうして、子どもたちにもほんの少し残すだけでももったいないんだという気持ちを持ってもらいたいのです。

だからと言って、胃袋が小さい子どもに無理やり食べろというわけにはいきません。
 

一体、先輩のクラスではその辺りをどのように折り合いつけているのでしょうか。
 

ヨーコは、今日は給食当番が準備をするところからそっとユーイチ先輩のクラスを伺いました。
 

給食当番の子どもたちは、いたって普通に給食を食器に分けています。

「特に何かあるわけじゃないなぁ、うちとやり方は同じだし」

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ヨーコは、秘密があるとしたらつぎ方にあると思っていました。きっと食べられない子には少なくついで、欲しい子にはたくさんあげているのです。
 

ヨーコも以前、食べられない子は缶に減らしにこさせたことがあります。思った通り、子どもたちは嫌いな野菜を減らしにきました。食べられる子どもがその分食べてくれましたが、ヨーコは好き嫌いを作ってしまっているんじゃないかと感じ、次の日から減らすのをやめたのです。
 

でも、ユーイチ先輩はきっとそれをしているのに違いありません。
 

当番が食事を配り終えると、ユーイチが出てきました。
 

「やはり、今から減らさせるのね。」
 

案の定、ユーイチは「食べられない子は減らしにきなさい」と言いました。

子どもたちが食器を抱えてきて、ご飯を減らしています。
 

「やっぱり。この子たちはこのおかずが嫌いなんだ。だから減らしてる。そして食べられる子どもが食べて完食にしてたんだ。それでいいのかなあ」
 

子どもたちは給食を減らすと元に戻りました。
 

「食べられる子どもにたくさん食べさせた方が、残菜がもったいなくないだけいいのかな。やはり先輩のように減らさせた方がいいのかなあー」
 
 

昼休み、ヨーコはユーイチに尋ねました。
 

「ユーイチ先輩のクラス、食べる前に減らさせてるでしょ?ああやったら好き嫌いが増えないですか?」

「ああ、ヨーコ先生、、何を見てるのかと思ったら。どうして?」

「私は一度減らさせたことがあるんですかど,嫌いなおかずの時にはわーっと減らしにきたのでやめたんです。」

「ああ,好きに減らさせたらそうなるだろうね。」

「どういうことですか?」

「そうだね。子どもには胃袋と相談させなきゃ」

「え?胃袋と?」
 

「そう。減らすのは,嫌いだからではなくて,量が多いから減らすんだ,ということ。今日の給食は自分にとって量が多くて食べられないから減らします,って自分で相談させるんだよ。」
 

「・・・わかるんですけど,子どもってそんなに素直に考えないと思うんですけど。食べられませーんとかいいながら,嫌いなおかずを減らしに来るんじゃないですか?」
 

ヨーコは,自分のクラスの子どもたちの顔を思い浮かべながら「絶対にありうるわ」と思いました。
 

「ヨーコ先生。そこが工夫だよ。工夫。」

「ユーイチ先輩,もったいぶらずに教えてくださいよ。いったいどうしてるんですか?」

「あのね,よーく自分の胃袋と相談するんだけど,減らしたら向こう3日間は好きな給食が出てもふやせない,というルールがあるんだよ」

ユーイチは得意そうに言います。
 

「え?」
 

ヨーコは目をぱちくりしています。
 

「あのね。減らすってのは,量が多くて食べられません,と胃袋と相談して決めたんでしょ?その胃袋は明日には大きくなってるってことはないでしょう,ということだよ。」

「あ,,なーるほど・・」

確かにそれならうまくいきそうです。
 

「もしかしたら嫌いで減らしたいということもあるかもしれないし,そういうこともあるよ。そこは教師として受け止める。子どもはそこで明日の好物をがまんしてまで今日残すのかどうか折り合いをつけるんだよ。それで今日のこしたら,いさぎよく向こう三日間はお替わりはしないんだ。」
 

なんだか,いつものユーイチとは違って立派だなあとヨーコは思いました。
 

「ヨーコ先生。そこがもしかしたら『秘密』なのかな。」
 

横から主任のマキが割り込みます。

「あ,マキ先生!」

ユーイチがきまり悪そうに頭をかきます。
 

ヨーコは,ユーイチはマキからこのことをならったんだなと思いました。
先輩にしては立派なこと言ってたし。
 

「確かに嫌いだから減らすっていうのはよくないけどね。でもどうしても食べられないものってあるじゃない。それを何が何でも食べて慣れて,食べられるようになりなさい!と言われるのは,大人でもつらいことじゃない?だから子どもには,どうしてもだめなときは減らせるんだ,という安心感を与えてあげた方がいいと思うのよ。」

ヨーコの日記

どうしても多くて食べられない子は確かにいる。

うちのクラスのひなちゃんは食が細いから,毎日残して悪そうに返しに来る。

明日からどうしても量が多くて食べられない子は,自分の胃袋とよく相談してへらしていいことにしょう。

もちろん,向こう三日間好きなものでも増やせないよ,というルールで。