2016年11月

「あ〜また、残っちゃった」
 

ヨーコは給食後、飯缶をみながらこぼしています。

「どうしてうちのクラスの子どもたちはあんまり給食をたべないのかしら」


給食当番の子が給食室に飯缶や食器を返しに行くために並んでいました。ヨーコはユキに聞いてみました。

「ねえ。どうしてみんな全部たべられないのかしら」

「時間が短いの。」「そうかなあ。20分あれば十分じゃない。だって、おとなりのユーイチ先生のクラスは毎日完食よ。同じ時間で。」

「だって、いつのまにか時間がおわっちゃうんだもん」

「おっかしいなぁ・・・」


ヨーコは腑に落ちません。全く同じ給食時間なのに、どうして先輩のクラスは毎日完食で私のクラスは毎日完食残るんだろう。


「何か秘密があるのに違いない」


ヨーコは次の日、給食時間にそっと教室を出てとなりのクラスを覗きに行きました。


子どもたちはニコニコしながら給食を食べています。特に変わったところは見えません。

それでも先輩のクラスは完食。ヨーコのクラスはまた残りました。


ヨーコは次の日もまた先輩のクラスを覗きに行きました。

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「センセー。またヨーコ先生がきてますよー」

先輩のクラスの子どもたちが先輩に知らせました。

「きりしま先生。どうしました?」

「あ、いえ・・あの、どうして○○先生のクラスはいつも完食なのかと思ってその秘密を・・・」

「はあ。キリシマ先生のクラスは残るんですか?」

「もう、毎日。子どもたちに聞いたら、時間がないっていうんです。でも先生のクラスも給食時間は同じでしょ?だから何か秘密があるのかとおもって・・・」


「ああ、それなら、これじゃないかな。ん・・・49分か。よし。キリシマ先生。あと1分みていてください。」

「???」


ヨーコはいったい何が起こるのかとおもって見ていました。


ちょうど1分たちました。先輩のクラスの当番の子どもが急に声をあげました。

「50分になりました。これからもぐもぐタイムです。10分間集中して食べましょう」

その合図で、子どもたちはそれまでグループにしていた机を動かし、勉強の時の1人づくえにもどしました。

それからの10分間はこれまでとはうってかわって、静かに給食を食べています。だれもしゃべりません。

聞こえるのは食器のカチャカチャいう音と、さわがしいとなりの自分のクラスの話し声。

みんな食べることに集中しています。


ヨーコは目を丸くして見ていました。


10分後

「あと、5分で給食が終わります。後片付けの準備をして下さい」

子どもの合図で、すでに食べ終わっていたほとんどの子どもたちは、食器を重ねたり給食ゴミをまとめたりして片付けの準備を始めました。その時間も静かです。


やがて5分が経ち、給食終わりのごちそうさまのごあいさつで、子供達は一斉に食器を片付け始めました。残す子どもはいません。


ヨーコは目から鱗が落ちたような気がしました。秘密は「もぐもぐタイム」。静かに集中して食べる時間を10分間つくっていることだったのです。


ヨーコはクラスにとって返しました。同じように食器を返しにきながら残滓を飯缶に戻して行く子どもたちを見ながら、「よーし!あしたから見てらっしゃい」と思うのでした。


翌日、ヨーコは先輩の真似をして「もぐもぐタイム」の導入を子どもたちに提案しました。


「みんな。お隣のクラスが毎日完食できる秘密を見つけたの。もぐもぐタイムよ。」

「もぐもぐタイム?」

「これから最初はいつもの通りに給食を食べましょう。でものこり15分になったら、それからは机を戻して1人になって、お話をせずにもぐもぐ集中して食べるの。これならきっとみんなも食べてしまえるよ。どう?」

「やってみる!」


子どもたちも乗り気です。新しいことにはなんだかワクワクして取り組もうとする子供達です。


「お話タイム」では、これまで通り楽しくお話をしながら食べています。もぐもぐタイムのはじまりをワクワクしながら待っている子どももいます。なんといってもこれでみんな完食できるかもしれないのです。


当番の子どもの合図で机を戻し、もぐもぐタイムが始まりました。とたんに子供達はシーンとなりました。給食の完食ができるならと一生懸命にとりくもうとしてくれているようです。


やがて給食が終わりました。


ヨーコも子どもたちも目を見張りました。


完食とはいかないけど、昨日までの残滓の多さとは比べものになりません。どうしても食べられなかった子どもが決まり悪そうにもどしたほんの少量が残っているだけでした。
「だいじょうぶ!だいじょうぶ!どうしても食べられなかったのね。心配しなくてもいいよ。ほら、こんなに少なくなったんだから」


ヨーコの日記

先輩のクラスが完食できるのは、集中して食べる時間「もぐもぐタイム」をつくっていたからだった。
確かにうちのクラスでは最初から最後までペチャクチャ喋りながら食べていた。これじゃ、時間がないというのも無理ないし、食べることに集中できない。
これからももぐもぐタイムを続けよう。子どもたちも乗り気だし。
でも、それだけじゃない気もする。もぐもぐタイムを作っても残す子どもが少しだけどいる。
でも先輩のクラスでは毎日完食している。まだ何か秘密があるんじゃないかしら。
あの子たちにも完食させてやりたいな。
もぐもぐタイムを増やしてみる?
いや、楽しく会話しながら食べる時間も必要だし、そもそも先輩のクラスではその時間でできてるんだから・・・。
しばらくやってるとなれるのかなー?

 

翌日から、しばらく様子を見ていました。

確かにこれまでとは打って変わって残債の量は減っています。「もぐもぐタイム」をつくるというたったそれだけでこんなにちがうなんて。

教師の工夫ってすごい。そして嬉しい。


でも、一週間経っても少量だけども残す子どもは減りません。


まだ、なにか秘密がありそうですね。

ニュースサイトを見ていて残念なニュース。
財務省の教職員削減案。

教職員削減の財務省案、文科省が反発「暴論だ」 (朝日新聞デジタル) - Yahoo!ニュース

実に残念としか言いようがありません。
国家百年の大計であるから,次世代の優秀な国民を育成するためにお金を湯水のごとく使いなさい!などとは言いません。
しかし,少子化だからその分減らせる,という財務省の削減案は,義家副大臣がいうように現場を知らない人間の暴言だと思います。


生活の格差に伴う,学力の格差
特別支援が必要な子どもの増加
英語の教科化による授業時数の増加

現在,現場の教師には勤務時間内に明日の授業の準備をする時間がありません。
4時まで授業です。
5時までで何ができるでしょうか。簡単な理屈です。翌日6時間分の授業の準備にはそれ以上の時間がかかるのです。
たった1時間でできはしません。

これを1時間でやろうとおもったらどうなるか。
5時になるまでやれるだけやって,
あとは,これまでの経験で,翌日子どもたちを前に初めて教科書を開いて,子どもたちに読ませている間に,ちょちょいと発問を考え,流れを考えてそれなりに長年鍛えた「プロの技」で「一応」授業を進めるのです。
テストが悪かろうがどうしようが,するべきことはした。
教科書の進度を確実に進めておかなければアウトですから,計画のところまで進めるだけは進めます。
これで形としてはOKです。

定時で帰ろうと思ったらそんなことしかできないのですよ。
簡単な理屈ではないですか。
教師には,「準備の時間」がいるのです。
それをこれまでの教師は必死になってやってきました。
遅くまで職員室で準備をしようと思っても,近頃は近所の目も厳しい。
光熱費の無駄遣いだ!と学校に電話がかかってくる時代です。
また,残業自体,教育委員会からよい顔をされません。
ですから,家に持って帰って,夜中まで教材研究をつづけるのです。
多くの教師はそういう生活をしているのです。

でも,ここに,理科や,家庭科,体育や英語を教える専門の教師がいたらどうでしょうか。
その時間は職員室で授業の準備や評価に使えるのです。
そうすれば,授業の質を落とさずに,定時で帰ることもできるでしょう。
その時間に,支援が必要な子どもにつくこともできるでしょう。
じっくりと話し相手になってやることもできるかもしれません。

これでやっと授業に質が保たれていくのです。
子どもが減るならむしろ好機。
これまでの人員を余裕ある教育のために使うという選択へ向けて教育行政をすすめることができそうなものです。
余裕が質を生みます。
現場に余裕を。
いや,「定時で帰ることができる」というスタンダードを。




 

いつも忘れ物をする子どもとたまにしか忘れない子どもとはしっかり分けて指導する。

このことはしっかり自分に言い聞かせていたヨーコですが,どうもはっきりしません。
 

「あれ・・この子昨日も忘れてなかったかしら。」

「あれ・・今日はじめて・・?これまで忘れ物をしたことなかったっけ・・」
 

記憶だけでははっきりしません。
 

そこで,ヨーコは「忘れ物カード」をつくることにしました。

忘れたら,何を忘れたのかを書いてもってこさせるのです。これで記録が残るので,たくさん忘れる子どもとあまり忘れない子どもとが一目瞭然。
 

「リョータ君,もう5回目よ!」

「ゆきちゃんは初めてわすれたのね。」

すぐにわかります。
 

ヨーコは,うまくやった,と自信満々。主任のマキに報告に行きました。
 

「マキ先生!私,あれからだれがどれだけ忘れたかわかるように忘れ物カードつくったんです。」

「へえ。」

「ほら。こうしたら,たくさん忘れたことあまり忘れてない子がすぐにわかるんですよ。あまり忘れない子を叱ることもなくなりました。」

「いい,工夫をしたわね。」
 

マキにほめられて,ヨーコはうれしそうです。

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「リョータ君はもう5回も忘れてるのね。」

「そうなんですよ。今日はしっかりいいました」
 

「理科の教科書ね。初めて忘れたみたいね。」

「え?何言ってるんですか?5回目ですよ。マキ先生。」
 

「ヨーコ先生。リョータ君は,今日理科の教科書を初めて忘れたのよ。それまでの4回は算数。」

「あ・・。本当・・・」

確かに,リョータは,今日初めて「りかのきょうかしょ」と書いています。その前は全部算数でした。
 

「あれ・・・じゃ,今日叱った方がよかったのかな・・でも全部合わせたら5つ忘れたのはたしかだし・・・」

ヨーコは頭にはてなマークをいくつもつけて考え込んでいます。
 

マキはいいました。
 

「細かくみたら,今日の叱り方もかわっていたかもよ。理科の教科書は初めて忘れたのね。こんどからわすれないようにねっていえたかもしれないわね。」

そうかもしれないなと思って,ヨーコはもう一度カードを見ました。
 

「それからもうひとつ。」

マキはいいました。
 

「リョータ君,算数を4回も忘れてるでしょ。もしかしたらなくしちゃってるんじゃないの?」

ヨーコははっと思いました。そうかもしれません。
 

「忘れ物にも,単にうっかりの場合もあれば,何かわけがある場合もあるわよ。なくしたとか,整理がうまくできてないとか,習慣がきちんと身についていないとか。せっかく忘れ物カードはじめたんだから,そこまで見えるようになったらいいわね。」
 

ヨーコは感心しました。記録するだけだと思っていた忘れ物から,こんなにいろんなことがわかるんだ・・・。

ヨーコの日記

忘れ物カードって,どれだけわすれたかすぐわかるからいいな。

子どもにも自分がどれだけわすれたか気づけるから,忘れないようにしようって思えるみたい。

それにしても,忘れ物の中味をもっと細かく見なきゃ。単にうっかり忘れたのか,それともなくなったりなど何かわけがあるのかそういうことを見取ってあげないと。

 

翌日,算数の時間,やっぱりリョータが「さんすうのきょうかしょ」と書いて忘れ物カードを持ってきました。こころなしかおずおずとしています。さすがに5回目ともなるといくら元気なリョータでも言い出しにくくなるようです。
 

ヨーコは忘れ物カードを受け取ると,じっと見ていいました。
 

「リョータ君,もしかしたら算数の教科書がなくなったんじゃないの?」

「うーん。なくなったみたい・・・」
 

ヨーコはクラスのみんなに問いかけました。「リョータ君の算数の教科書がなくなったんだけど,だれか間違えてもってない?」
 

翌日,間違えてもってかえっていた子どもが「家にありました」と言って持ってきました。

リョータはほっとした顔をしています。


「聞いてくださいよ!マキ先生」
 

お昼休み,ヨーコがぷーっとふくれてマキの教室にやってきた。
 

「どうしたの?ふぐみたいになって」

「うちのクラス,忘れ物が全然減らないんですよ。毎時間,「教科書忘れました」「ノート忘れました」ってずらっと私の前にならぶんですから。」

「ふふ。大変ね。」

「もう。笑い事じゃないですよ。それでね,実は困ってることがあって・・」
 

忘れ物が多い以上に困ってることって何だろうとマキは思い,ヨーコの方に向き直る。
 

「実は,授業の前に忘れ物をした子が並ぶんですけど,最初は「今度から忘れないようにね」と言って帰すんです。でもそれが5人くらいになってくるとだんだん腹が立ってくるんです。」

「ふんふん。」

「それで8人目くらいになると,同じもの忘れてるのについおこっちゃうんですよ。腹が立って。」

「それは考え物ね。指導は公平でなくちゃ。」

「わかってるんですよ。それでもこう・・・・重なってくるとだんだん腹がたって・・どうしたらいいんでしょう?」
 

ヨーコの悩みは,よくわかる。
私も若いころは同じことで悩んだっけ。
 

「ヨーコ先生。その悩みには実は,もう一つ問題があるのよ。気づいてる?」

「なんですか?」

「それは,先生が腹を立ててる子って,普段あまり忘れない子ってこと。」

「え?・・・・・」
 

そういえば,さっき「もうちゃんとわすれないでもってきなさい!」と叱った子は,あまり忘れない子だったな。悲しそうに帰ったっけ。
 

「そして,先生がやさしく「今度から忘れないようにね」って言って帰す子どもは,ほとんど毎日忘れてる子。ちがう?」

「そういえば・・・」
 

最初の方に並ぶのは,たいていいつもの子たちだ。
 

「ヨーコ先生。最初に並ぶのは忘れ物をし慣れてる子たち。だから,忘れたらできるだけ早く先生の所に行って許してもらえればいいってことをよくわかってる子たちなの。だからさっと並ぶでしょ?」

「はい。」

「でも後の方に並ぶ子たちはあまり忘れ物しないのでいざ忘れたときに先生に言いに行くのを躊躇してでおくれてしまってるのよ。先生はそれに気づかないで,いつも叱る相手を逆にしてるわけ。最初に来る子どもたちの方がむしろ叱られないといけない子供たちみたいね。」
 

そうだった・・・!目からウロコ…!たしかに。私は叱らないでいい子たちの方を叱ってたんだ・・

ヨーコの日記

今までなんで気づかなかったんだろう。

最初の方に並ぶ子たちはともかく,後の方の子たちは普段忘れ物をあまりしない子たちばかりだった。

それなのに,後の方になるにつれてだんだん腹が立ってくるもんだから,ついその子たちの方を叱っちゃってたんだ。あ~ヨーコ何やってんの。

明日からちょっと叱り方変えなきゃ。並び順に関係なく,いつも忘れる子とたまに忘れた子とはわけて考えなくちゃ・・・

 wasuremono

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